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第3章
暖温帯針葉樹林における樹冠上CO2およびH2Oフラックス
−滋賀県南部桐生水文試験地・ヒノキ林−


表題目次3.13.23.3.13.3.23.3.33.4.13.4.23.4.33.5

目次

第3章 暖温帯常緑針葉樹林における樹冠上CO2およびH2Oフラックス
       −滋賀県南部桐生水文試験地・ヒノキ林−                         22
 3.1 はじめに                                                         22
 3.2 観測                                                             23
 3.3 モデルの概要                                                     25
 3.3.1 各フラックスの基礎式                                           25
 3.3.2 群落抵抗サブモデル                                             27
 3.3.3 光合成サブモデル                                               28
 3.4 結果と考察                                                       30
 3.4.1 各フラックスの観測結果およびモデルによる再現計算結果           30
 3.4.2 通年気象データを用いた数値実験                                 34
 3.4.3 森林群落による炭素固定量および蒸散量の季節変化                 37
 3.5 まとめ                                                           38


3.1 はじめに

森林における群落レベルのCO2およびH2Oフラックスの計算モデルの構築は、広域での森林の炭素収支やガス交換量を把握するために、観測とともに進めなければならない課題の一つである。通常、森林−大気間の CO2およびH2O交換速度の観測は、森林樹冠上で観測タワーを利用して行われる。近年では、渦相関法の導入によって、CO2およびH2Oフラックスの測定値に十分な精度が得られるようになった。しかしながら、主に技術的な問題により、通年の継続的な実測データの取得は、いまだ容易であるとはいえない。したがって、より容易に取得可能な水文微気象データを用いた通年のCO2およびH2O交換量を計算するモデルの構築は重要な課題である。

これまで、森林水文学の分野における森林流域の降雨−流出特性に関する研究においては、蒸発散量は、上述のような実測の困難さから、対象流域あるいは各気候帯における平均的な値をもちいることが多かった。第2章においても、蒸発散速度は、各月毎の平均的な水文・気象条件の測定値より、月平均ポテンシャル蒸散速度として算出したものからHYCYMODELを用いて蒸散量を見積もった。しかしながら、森林におけるH2Oの移動過程をより詳細に、かつ、各部分での移動を統合的に取り扱うためには、蒸発散過程におけるH2O移動現象は、変動する水文・気象条件によって制御されるものとして取り扱う必要がある。本章では、この点を考慮しながら、森林におけるH2O移動過程に関するモデルを構築し、解析を行う。森林における蒸発散は、主に、森林樹冠部での遮断降雨の蒸発(遮断蒸発)と、葉からの蒸散に分けられ、本研究では、このうち、蒸散過程について述べる。

一方、CO2は、現在、大気の0.03から0.04%を占め、その濃度は、産業革命以降、急激に増加しており、近年では、それに伴ったCO2の温室効果の増大による地球規模の気候変動の可能性が指摘されている(e.g., Manabe and Wetherald, 1985)。このため、今後のCO2濃度変動の予測が、気候変動に関する研究にとって、重要な情報を提供すると考えられる。CO2濃度変動の予測のためには、主なCO2吸収源の一つと考えられている森林の炭素固定量、すなわち、純光合成量の算定および予測が必要である。

森林におけるCO2交換は、葉による光合成と森林における様々な部分での呼吸に分けられる。この内、葉による光合成と呼吸は、蒸散と同様、気孔を介した葉と大気の間のガス交換過程である。本研究では、CO2移動過程の解明の重要性と、森林におけるH2O移動過程との連動性を考慮し、これらを同時に研究対象とする。

個葉における光合成・蒸散速度の環境応答については、既往の研究が少なくないが、森林群落規模におけるCO2およびH2O交換過程については、近年、モデル化の試みがはじまったばかりであり(Kim and Verma, 1991; Sellers et al., 1995)、年間を通した森林の炭素固定を推定した例はほとんどない。本研究では、森林からの蒸散量の推定に関する研究において広く用いられている(Stewart, 1988; Lindroth, 1985, 1986; Stewart and Gay, 1989; Dolman, 1988) 森林群落を一枚の大きな葉と仮定して大気−植生間のCO2およびH2O交換量の経時変化を推定するモデルを構築した。

モデルは、気孔開閉や炭酸同化過程によるCO2およびH2O交換速度の変動が表現されるよう個葉における気孔コンダクタンスモデル(Jarvis, 1976; 小杉ら、1995)および、生化学的光合成モデル(Farquhar et al., 1980; Kosugi, 1996)をサブモデルとして組み込み、群落に拡張して適用した。入力として必要なデータは、樹冠上での放射収支、光合成有効放射量、気温、水蒸気圧、風速、大気CO2濃度であり、出力として、顕熱、潜熱、CO2フラックスなどの経時変化が算出される。

対象とする森林を暖温帯の滋賀県南部に位置する桐生水文試験地ヒノキ林に設定し、1994年から樹冠上のCO2およびH2Oフラックスを、渦相関法を用いて種々の水文微気象要素とともに観測した。ほぼ四季を網羅する1994年5月から1997年5月までの4年間に行われた計10日の集中観測データをもとに、CO2およびH2Oフラックスが各季節で十分な再現性が得られるように、モデルパラメータの調整が行われた。これらの最適化されたパラメータを用いて数値実験を行い、算出された純光合成速度・蒸散速度の季節変化を水文・気象要素の季節変化と対比して考察を加える。


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田中広樹