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第4章
亜寒帯落葉針葉樹林における樹冠上CO2およびH2Oフラックス
−ロシア連邦サハ共和国シベリアタイガ・カラマツ林−


表題目次4.14.24.3.14.3.24.4

目次

第4章 亜寒帯落葉針葉樹林における樹冠上CO2およびH2Oフラックス
       −ロシア連邦サハ共和国シベリアタイガ・カラマツ林−             40
 4.1 はじめに                                                         40
 4.2 観測場所と方法                                                   42
 4.3 結果と考察                                                       44
 4.3.1 観測の結果                                                     44
 4.3.2 シミュレーションの結果                                         55
 4.4 まとめ                                                           66                                                 38


4.1 はじめに

森林群落と大気とのCO2およびH2O交換量は、森林群落樹冠上において、それらの鉛直方向での移動速度(フラックス)を測定することによって知ることが出来る。森林群落と大気のCO2およびH2O交換速度の環境要因に対する変化を捕らえるためには、森林群落樹冠上でのCO2およびH2Oフラックスの連続した観測が不可欠である。本章では、森林群落樹冠上でのCO2およびH2Oフラックス観測を比較的長期に行い、観測によって得られたデータを用いて、群落全体としての光合成・蒸発散特性の季節的な変化を数値化することを目的とする。また、これらの特性の変化を定量的に表す際に、第3章で示したモデルを用いる。

現在、最も直接的で精度の高いCO2およびH2Oフラックス測定法は、渦相関法であると考えられている。渦相関法は、直接法とも呼ばれ、CO2濃度などの測定対象物理量とその場の鉛直風速を応答の速い測器で直接測定し、これらの共分散として対象物理量の鉛直フラックスを算出する手法である。1980年代に入って、応答の速い開光路式赤外線CO2・H2O変動計の開発が進み(大滝ら、1985)、超音波風速温度計との組み合わせによって、CO2およびH2Oフラックス観測への渦相関法の適用が可能となった。Verma et al.(1986)、Baldocchi et al.(1987)、Leuning and Moncrieff(1990)、Hollinger et al.(1994)、Tanaka et al.(1994)、田中ら(1996)等は、森林、あるいは果樹園樹幹上のCO2およびH2Oフラックスを渦相関法を用いて計測し、その結果を報告している。しかしながら、これらの渦相関法を適用するための観測は、開光路式赤外線CO2およびH2O変動計が耐水性に乏しいことと、野外条件でのデータ処理・記憶装置の取り扱い等の面から、長期間の無人観測には適さないことがしばしば指摘されてきた(光田ら、1987;山野井・大谷、1992)。近年では、携帯型のコンピュータが発達し、コンピュータの処理速度の飛躍的な向上および

記憶容量の飛躍的な増大によって、野外条件でのデータ収録に関する問題は解消されつつある。

一方、CO2およびH2Oフラックス観測において、比較的簡便なメンテナンスによってデータを収録する手法のひとつとして、傾度法の適用も考えられる。傾度法は、対象物理量の鉛直勾配とその乱流拡散係数の積として、鉛直フラックスを算出する方法である。 CO2およびH2Oフラックス観測では、高度別のCO2およびH2O濃度測定からCO2およびH2O濃度の鉛直勾配を算出し、風速の鉛直プロファイル観測から乱流拡散係数を算出する。これらの積として、 CO2およびH2Oフラックスを算定する。H2O濃度は、乾湿球温度計あるいは、静電容量式の湿度計を用いて、またCO2濃度は、閉光路式の赤外線ガスアナライザーの使用によって、比較的簡単に長期間の無人観測が可能であるが、濃度勾配を十分な精度で得るためには、その場の粗度長や測定の分解能に応じて、一定以上の測定高度差が必要となる。

小麦畑、あるいは水田上での傾度法を用いたCO2フラックス観測は、これまでに、井上(1957)、井上ら(1958)、Ohataki and Seo(1972, 1974)、Pearman and Garratt(1973)等によって報告されている。また、森林群落樹冠上では、桐生水文試験地ヒノキ林において、Tanaka et al.(1997)が試みたが、多くの問題点が指摘されている。渦相関法とは異なり、通常、傾度法によるフラックス算定には、大気が中立であること、 CO2およびH2Oの乱流拡散係数が運動量の拡散係数と等しいことが仮定として含まれる。現実の気象条件下では、これらの仮定に反する場合が多いため、多様な気象条件下でのCO2およびH2Oフラックスを傾度法によって算定するためには、仮定に反する場合の補正が必要となる。

大気が中立でない場合のH2Oフラックスの補正は、Swinbank(1968)、Paulson(1970)、Webb(1970)、Dyer and Hicks(1970)、Businger et al.(1971)、Badgley et al.(1972)、Pruitt(1973)、Dyer(1974)らによって研究され、多くの経験式が提案されている。しかしながら、CO2フラックスについては、未だ、その手法は確立されていない。また、森林群落では粗度長が大きく、測定高度差を十分にとるために高所での観測が必要となることなど、技術的に十分な精度で濃度勾配を得ることは困難である。

これらの点を踏まえて、本研究では、閉光路式の赤外線ガスアナライザーおよび超音波風速温度計を用いて、渦相関法を適用するための観測を数ヶ月に渡って連続的に行った。その結果を用いて、第3章で示したモデルを用いて解析を行う。それによって、CO2およびH2Oフラックスの再現計算を行い、対象となった森林群落の光合成・蒸発散特性の季節的な変動を明らかにする。

本章において対象とした森林は、落葉性のカラマツが優占し、春期においては、開葉に伴い、森林の蒸散・光合成特性が著しく変化すると考えられる。対象となったカラマツ林内のサンプル木における葉の伸びと展開の観察によると、カラマツの芽の活性は、5月下旬に始まり、展葉は6月上旬にほぼ完了している。このような変化は、森林群落と大気とのCO2およびH2O交換に影響をおよぼす。すなわち、樹冠上でのCO2およびH2Oフラックスの観測から、森林群落全体としての蒸散・光合成特性の変化を見積もることができ、モデルを用いて、それらの変化の途中で生じる様々な群落の特性値の変動を定量的に評価することができる。

第3章では、対象林が常緑針葉樹林であるため、葉面積の変動などによる森林群落の蒸散光合成の環境応答特性が季節によって変化しないものとみなし、第一次近似として、モデル中の各パラメータは年間を通じて一定とした。しかしながら、本章で扱うような森林では葉面積の変化および葉の活性度などの樹木の生理生態的な特性の変動にかかわるパラメータの季節変化を考えなければならない。本研究では、観測結果にモデルを適用し、最適化されたモデルパラメータの変化より、森林群落の蒸散・光合成速度の環境変動に対する応答特性の季節変化を解析する。


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田中広樹