4.2 観測場所と方法
観測は、ロシア連邦サハ共和国ヤクーツク市(62.08°N、129.75°E, 図-4.1)より北へ約25 kmの地点に設けられた微気象観測塔で行われた。微気象観測塔周辺の林分はカラマツ(Larix siberica)が優占しており、樹冠を構成するカラマツの平均樹高は、14.8 mであった。また、プラントキャノピーアナライザー(LI-COR, LAI-2000)による葉面積指数は、展葉後の夏期には、およそ1.2であった。開葉期における葉面積指数の変化を図-4.2に示す。

図-4.1 対象森林の位置(ヤクーツク)
Location of observed forest, Yakutsk
樹冠上でのフラックス測定は、1997/8/17-8/30、1998/5/15-7/23 の間、ほぼ連続して行われた。渦相関法によるフラックス算定のための測定は、高度約32 mの樹冠上において、三次元超音波風速温度計(KAIJO, DA-600)と、閉光路式赤外線ガスアナライザー(LI-COR, LI-6262)を用いて行われた。ガスアナライザーへの大気の取り込みは、 三次元超音波風速温度計に近接するようにポリエチレン製チューブ(内径4.0 mm、長さ3.5 m)を接続した空気取り込み口を設置しエアポンプ(1997年は1.5 litter min-1; 1998年は1.0 litter min-1)を用いて行われた。
渦相関法による観測項目を用いてフラックスを表すと、 運動量フラックス(t, g m-1 s-2)顕熱フラックス(H, W m-2) 、H2Oフラックス(E, g m-2 s-1)、 CO2フラックス(Fc, mg m-2 s-1)は、それぞれ、第3章で既に示した通り、次式で表される。
(4.1)
(4.2)
(4.3)
(4.4)
ここで、raは空気の密度(g m-3)、Cpは定圧比熱(J g-1 K-1)、Pは大気圧(hPa)、mCO2はCO2の分子量(≒0.044, mg mmol-1)、Rは気体定数(8.31, J mol-1 K-1)、Tは気温(K)を表す。また、c'はCO2濃度の変動成分(mmol mol-1)、T'は気温の変動成分(K)、e'は大気水蒸気圧の変動成分(hPa)、w'は鉛直風速の変動成分(m s-1)を表し、―は、それぞれの時間平均を表す。本観測では、渦相関法を適用するための変動成分の測定を10Hzの時間間隔で行い、渦相関法の計算のための平均時間は15分である。鉛直風速については、第3章において既に述べたように時間平均の吹き上げ角が0となるように補正を施した。
ところで、閉光路式ガスアナライザーでは、測定地点にチューブを設置し、その場の大気をガスアナライザーの測定セルまで、エアポンプを用いて引き込んで大気中の対象ガス濃度を測定する。したがって、チューブを通過するのにある一定の時間がかかるため、測定された濃度の時間変動は原位置での濃度変動に対して時間遅れをもつ、鉛直風速との共分散をとる場合、時間遅れの修正が必要となるが、これは以下のようにして見積もった。
CO2およびH2Oフラックスが大きい時には、CO2およびH2Oは、乱流渦によって輸送されていることから、これらの濃度変動は、鉛直風速変動と良い相関がある。濃度変動の位相を0.1秒づつ遅らせて、その都度、濃度変動と鉛直風速変動の相関係数を算出し、それが最大となる延滞時間を特定した。エアポンプの流量は一定とみなせるため、CO2およびH2Oフラックスが大きいと考えられる晴天日の日中の平均的な時間遅れを、本観測でのCO2およびH2Oデータ記録の時間遅れと見積もった。見積もられた時間遅れは、1997年8月の観測では4.0秒であり、1998年の観測では5.5秒であった。
渦相関法を適用するための観測と同時に樹冠上において、短波放射計(EIKO, CM-6F)によって全天日射量を5分毎に測定した。本章では、渦相関法のための平均時間である15分間の平均値を各フラックス測定時の全天日射量として用いた。超音波風速温度計の測定値より15分平均の気温および風速を算出し、赤外線ガスアナライザーの測定値より15分平均のCO2濃度および大気水蒸気圧を算出した。以下では、それらをモデルの入力として用いることとする。ただし、超音波風速温度計による測定が困難となる降雨時については、計算から除外した。また、降雨直後における遮断蒸発も算出していない。

図-4.2 シベリアタイガ・カラマツ林の開葉期における葉面積指数の変化
Change in LAI during the leaf sprouting season at Larix forest, Siberian Taiga