3.4.2 通年気象データを用いた数値実験 四季の代表的な気象条件を含む1994年5月から1997年5月までの3年間に行われた10日の集中観測データからモデルパラメータが得られた。これらのパラメータと通年の水文・気象観測データから、年間を通した純光合成・蒸散速度を算出した。 モデルによる計算の流れを図-3.9に示す。モデルへは、純放射量、日射量、気温、大気水蒸気圧、大気CO2濃度、風速を入力として与える。次に、仮の仮想葉温度T0を与える。本研究においては、初期値としてTa+1.0を与えた。次に群落抵抗サブモデルによって群落抵抗を算出し、潜熱フラックスを算出する。熱収支式より、顕熱フラックスを計算し、仮想葉温度を再計算する。ここで算出される仮想葉温度をT0として、与え直し、再計算される仮想葉温度がT0と等しくなるまで、この計算を繰り返す。次のステップでは、仮の純光合成速度A0を初期値として与える。 A0より、(3.30)式を用いて、仮想葉内部CO2濃度を算出する。次に、光合成サブモデルによって純光合成速度を計算する。ここで算出された純光合成速度をA0として与え直し、再計算された純光合成速度がA0と等しくなるまで計算を繰り返す。最終的に等しくなる純光合成速度をモデルの出力値と決定する。すなわち、モデルへの入力要素は、純放射量、全天日射量(PAR)、風速、気温、大気水蒸気圧、CO2濃度の6要素であり、モデルからは、空気力学的抵抗、群落抵抗、仮想葉温度、飽差、仮想葉内部CO2濃度、顕熱フラックス、潜熱フラックス、CO2フラックスなどが出力される。 図-3.9 モデルによる計算の流れ Flow chart of procedures of simulation 図-3.10 日射量(S)、純放射量(Rn)、気温(Ta)、水蒸気圧(ea)、風速(U)の月平均された日変化の年変化 Annual variation in the monthly diurnal change of solar radiation(S), net radiation(Rn), air temperature(Ta), vapor pressure(ea) and wind speed(U) モデルへの入力には、1996年10月1日から1997年9月30日までの純放射量、日射量、気温、大気水蒸気圧、風速の10分毎の観測値を用い、観測値のない大気CO2濃度については便宜上350 mmol mol-1を用いた。図-3.10に、それぞれの環境要因の月毎に平均した日変化を示す。この期間中、月平均気温は2.3℃(1997年2月)から25.7℃(1997年8月)まで変動し、それに応じて、月平均の大気水蒸気圧は6.0 hPaから29.2 hPaの間を変動した。風速は秋期および冬期に、およそ1.5 m s-1と比較的大き 図-3.11 モデルにより計算された仮想葉温度−気温差(T-Ta)、飽差(D)、大気CO2濃度−仮想葉内部CO2濃度差(Ca-Cc)、空気力学的抵抗(Ra)、群落抵抗(Rc)、顕熱フラックス(H)、潜熱フラックス(lE)、CO2フラックス(Fc)の月平均された日変化の年変化 Annual variation in the monthly diurnal change of difference between leaf and air temperature(T-Ta), vapor pressure deficit(D), the difference between atmospheric and inside CO2 concentration(Ca-Cc), aerodynamic resistance(Ra), canopy resistance(Rc), sensible heat flux(H), latent heat flux(lE) and CO2 flux(Fc) く、春期および夏期にはおよそ0.9 m s-1と小さかった。 これらの入力データを用いて数値実験を行った結果、出力値として順に、気温と仮想葉温度の差、飽差、大気CO2濃度と仮想葉内部CO2濃度の差、空気力学的抵抗、群落抵抗、顕熱・潜熱フラックス、CO2フラックスについて、各月毎に平均した日変化を図-3.11に示す。仮想葉温度は日中に気温よりも高くなり、正午での温度差は、秋期および冬期で約0.5℃、春期および夏期で約1.0℃となった。また夜間は、仮想葉温度が気温よりも低くなり、その温度差は-0.2℃程度となった。飽差は、気温と同様に正午過ぎに最大、早朝に最小となる日変化を示し、最大値は冬期に約3 hPa、秋期に約5 hPa、春期および夏期に約10 hPaであった。仮想葉内のCO2濃度は日中に大気CO2濃度より低くなり、濃度差は20〜30 mmol mol-1程度であった。 空気力学的抵抗の月平均値は、比較的風速の大きかった秋期および冬期に約4 s m-1、風速の小さかった春期および夏期に約6 s m-1であった。また群落抵抗は、日の出とともに急激に低下し、午前中(9:00〜10:00)に150〜200 s m-1程度の最小値を示し、その後正午付近から徐々に増大し、日の入りとともに急激に増大する日変化を示した。 顕熱フラックスの正午の最大値は、冬期の約200 W m-2から夏期の約400 W m-2まで変化した。日中の潜熱フラックスは、顕熱フラックスよりも小さく、正午付近の最大値は冬期の20 W m-2程度から夏期の100 W m-2まで変化した。CO2フラックスの日中の最小値は、冬期にはおよそ-0.1 mg m-2 s-1程度であり、それ以外の季節では-0.2 mg m-2 s-1程度となった。また夏期では、最小となる時刻は日の出後の午前中に見られ、正午付近に一時極大となり、日没前に再び極小となる日変化が見られた。 潜熱フラックスの日変化は、日射量の変化に良く対応し、森林の蒸散速度は日射量の影響を強く受け、気温および水蒸気圧の影響は顕著に現れていない。つまり、群落抵抗の変化が主に日射量の変化によって生じていることになる。一方、下向きのCO2フラックスは、夏期、群落抵抗が小さいにもかかわらず、高温条件下において低下している。これは、仮想葉温度の上昇によって光合成速度が低下し、暗呼吸速度が大きくなるため、仮想葉内CO2濃度が上昇したためと考えられる。