3.5 まとめ
森林群落全体を一枚の仮想葉とみなし、運動量、顕熱、潜熱、CO2の拡散に関する電気回路アナロジーの考えに基づいた方程式と熱収支式を連立させたモデルを用い、各種フラックスの時系列変化の推定を行った。群落抵抗および、光合成速度にの推定には、個葉における気孔コンダクタンスモデルおよび、生化学的光合成モデルを群落に拡張して適用した。
ほぼ四季を網羅する1994年5月から1997年5月までの4年間に行われた10回の渦相関法による樹冠上での各フラックス観測結果を用いて、モデルパラメータが最適化された。その結果、各季節において、潜熱フラックスを精度良く再現でき、また、CO2フラックスについても、一定の精度で再現できた。
このようにして得られたモデルパラメータを用いて、1996年10月から1997年9月の一年間の連続した水文・気象観測データから年間を通した顕熱、潜熱、CO2フラックスなどを計算する数値実験を行った。その結果、顕熱フラックスは、冬期では約200 W m-2、夏期では約400 W m-2の最大値を正午付近にもつ日変化を示す季節変化が見られ、潜熱フラックスは、冬期に正午付近で20 W m-2程度、夏期に100 W m-2で最大となる日変化を示す。また、CO2フラックスの日中の最小値は、冬期には、およそ-0.1 mg m-2 s-1程度であり、それ以外の季節では、-0.2 mg m-2 s-1程度となった。また、夏期では、最小となる時刻は日の出後の午前中に見られ、正午付近に一時極大値を持つ日変化が見られた。
さらに、算出されたCO2フラックスから、対象となった期間ついて、各月の炭素固定量を算出した。炭素固定のピークは、春期に見られ、夏期には、高温と乾燥のため群落としてのCO2の放出が算出された。年間の炭素固定量と蒸散量は2.4 tC ha-1、282 mmとそれぞれ算出された。
本対象林は常緑性のヒノキ林であるため葉面積の変動などに伴う森林における光合成・蒸散速度の環境応答特性の季節変化がないものと仮定して、モデルの適用を行った。実際には、これらの特性は季節的に変化することが考えられ、特に落葉樹林において重要な問題となる。光合成・蒸散速度の環境応答特性の季節変化を考慮したモデルの適用については、次章において取り扱う。