H19年度地球学1「大気−地表相互作用の観測」(5月8日)の質問とその回答

質問
回答
中国淮河流域のフラックス季節変化、潜熱フラックスが(7〜8月の夏季ではなく)5〜6月に顕著なのはなぜ?潜熱フラックスは、入射する放射エネルギーの季節変化と、植生や灌漑の状態に大きく左右されると思います。図で見ると、潜熱フラックスのピークは麦の生長期(4〜5月)と稲の生長期(6月後半〜8月)にあるように見えます。日本にいると7〜8月が盛夏と感じますが、夏至は6月22日前後で、梅雨がなければ入射エネルギーは6月が最大となり、6月は既に盛夏といってもいいでしょう。自分の暮らす地域の常識は、しばしば全球的な常識ではない場合がありますので、注意が必要です。
エネルギー収支のインバランスがなぜ負になるのか?乱流フラックス観測では、比較的大規模な循環や定常的な流れによる熱輸送が検知されていないと考えられる。いずれの熱輸送も輸送の方向は熱(温度など)の勾配に従うと考えられるため、乱渦スケールの熱輸送の向きと、循環スケールの熱輸送の向きは、同じ向きとなる場合が多い。このため、多くの場合、負のインバランスとなる。
どのくらいの計測をすれば一般性について論じることが出来るのか?それこそが、研究テーマだと思います。1瞬1瞬が異なった条件に変化する自然界における現象は、1回きり、かつ、不可逆的な現象であることが多い。測ったものが何であるのか?一般性があるのか?どう普遍性を見出すか?そこを考えるのが観測研究の醍醐味でしょう。
未知の物が存在するのにモデルなど作成できるのか?モデルは、考慮する要素とメカニズムの複雑さを制限することで構築されると思います。そのようなモデルで説明しきれない部分を追及していくのも、観測研究の大きなテーマだと思います。
今現在、上空の水蒸気の測定は完全に不可能か?完全に不可能ではない。ラジオゾンデ、マイクロ波放射計、エアロゾンデ、係留気球など、水蒸気測定の方法はあるが、乱流現象や規模の小さい対流現象を捉えるのに適しているとはいえない。
自然相手の観測で、特異な結果が出た場合、測定ミスなのか、大発見なのかの見極めをどのように考えるのか?測定ミスの可能性については、考えられるものは検討し、打ち消せるものは打ち消し、可能性として残るものは残したまま(もちろん、公表する際は明示する)、一応の解釈をして、データを公表することが必要ではないでしょうか?ひとりでできることは限られますし、その事象が重要なら、他の研究者が解明するかもしれません。
これからのフラックス観測で一番必要になってくることは何ですか?観測研究に一番必要なこと...”意欲”でしょうか?
境界層高度は変化しますか?その原因は何ですか?変化します。レジュメを読み返してください。あるいは、より詳しくは、気象学の教科書をお読み下さい。
地表(植生)の特性変化のグラフで8月付近の値が無いのはデータ自体が取れなかったからですか?その通りです。そのグラフを作成した時点では、その季節のデータはありませんでした。
講義で紹介した観測サイトは自然の多い場所でしたが、都市部などでも観測しているのでしょうか?同様の理論でデータ解析を行っているのか?都市のフラックスを観測している研究者もいます。森林の観測と同様の理論を用いる部分もあるし、別に考えるべき要素もあると思います。
ウインドプロファイラレーダの仕組みについて詳しく知りたい。文献検索などで、Windprofilerと検索してみてください。
乱流スペクトルが何を意味しているのかわからない「何を意味するか」という問いに端的に答えるのは非常に困難です。スペクトルとはなんぞや?を勉強されると少しは分かってくるかもしれません。
植生面のアルベドの決まり方をもっとよく知りたいと思った。細かいところはともかく、短波(ほぼ可視光)の反射率ですから、単純に黒っぽければ小さく、白っぽければ大きいと考えれば、植生の色の変化の様子を想像すれば、なんとなく分かりそうにも思います。麦や稲を植えた(発芽した)直後は、地面も見えていることに要注意です。
クロロフィルって何ですか?chlorophyllで調べてみてください。葉緑素という単語はご存知ですか?
乱流観測って何ですか?さて、何でしょうね?こういう難しい質問には、とても答えられません。禅問答ですな。
麦刈りの時期には顕熱フラックスは著しく増加しているのに、稲刈りの時期にはそこまで増えていないのはなぜですか?おそらく、入射する放射エネルギーの違いが大きく寄与していると思います。稲刈りの時期は晴天日が少ないような印象があります。(秋雨というのがあるかどうかは知りませんが)
大気境界層はどうして存在するのでしょうか?熱フラックスに伴って上下するのはどうしてですか?地表面摩擦の直接的影響下にある大気層を大気境界層と呼びます。前者の答えとしては、地表面摩擦が直接的に影響するから、というのが答えでしょうか?後者はレジュメを読むとある程度理解できると思います。
蒸散量の環境応答の図で、点の端をなぞるようにフィッティングするとのことだが、かなりバラついている。フィッティングしようとした意図が良く分からない。極力単純なモデルを使った例を示したまでですが。なぜバラつくか?を考えるのも楽しいと思いますよ。
観測結果がいかに良く、モデルと結び付けられるかということは、きちんと統計学など考慮して決めるのですか?モデルを使って特性を抽出する手法を提示することを主眼としました。紹介したモデルを用いた解析例では特に統計的な確からしさなどはチェックしていません。論点が異なるのですが、モデルの正当性も必要に応じて考慮するべきでしょう。統計的検定も、機械的に行うのではなく、その目的を考えて行うべきです。
どのくらいの観測を行えば、有用なデータであると決まるのでしょう?一回の観測で十分と言えるのか?言える場合もあれば、言えない場合もあるでしょう。”1回”とは、どういう単位の何を指すのか不明確ですが、見たい現象が見られれば1回で済むと思いますが。
田んぼの観測は日本でも出来そうだと思いますが、中国でやった特別な理由はありますか?水平均一に近い場という意味では、日本国内は非常に不利です。また、土地所有の形態など、社会的な制約・慣習も観測を行う上では、重要な問題となります。
海面におけるフラックスは地表(陸面)とどのような違いがありますか?海面フラックスは日変化が非常に小さいのが陸面との大きな違いです。また、顕熱フラックスが比較的小さく、潜熱フラックスが大きい傾向にあります。海洋の循環により、海水温度は気温に比べて年較差が小さい場合が多いので、夏に下向きの顕熱フラックスが見られる場合があることも陸面でのフラックスとの違いとしては面白いところです。
フラックスと移動モデルについて語りたいのであろうと想像します。O2⇔CO2の変換について語られていないのが気になります。質問の意味は不明瞭で回答不能です。酸素と二酸化炭素の変換とは、すなわち、植物の細胞内での同化・不同化のことでしょうか?本講義において、その点に触れることの意味が分かりません。
最終的には人工衛星の観測で事足りるのではないか?人工衛星で観測されるのは、基本的には、電磁波の強度のみです。これだけで事足りるはずがないのは自明と思います。当然、地上1点のフラックス観測のみで事足りるとも思いませんし、もちろん衛星観測を含めた観測研究のみで事足りるとも思いません。このことこそが、「地球学」のような体系を必要とする理由だと思います。また、「最終的」という言葉は研究・学術的探求には存在しない言葉だと思います。
植生によってCO2フラックスに変化がみあっれるのは想定できましたが、アルベドにも大きな影響が出ているのに驚きました。単純に言えば、葉が何色をしているかと、土壌面がどのくらい見えるかが効いて、アルベドが変化するようです。
H+λE=Rnet-Gが成り立たないのは、Sが関わっているからですか?Sはなんですか?どの程度の量ですか?すいません、説明を省略しました。Sは貯熱変化量です。地表面から測定高度までの間の大気と植生などの温度上昇と湿度上昇があれば、Sは+の値になります。朝方の昇温時には、無視できない量になりますが、いわゆるインバランスを説明する程には大きな値ではありません。せいぜい数10Wm-2というところでしょうか。
観測データでは解釈が重要なようですが、今まで解釈に苦労した観測データにはどのようなものがありますか?すんなり解釈できてしまうと面白みがないわけで、ほとんど全ては苦労して解釈するわけです。それがたぶん、私の研究の大半ですので、私の書いた論文、ゼミ発表の記録などをご覧いただくのが良いかと思います。WEB上にもそれなりに散らばってますので、興味がありましたら、お探し下さい。
現在はシミュレーションの結果と観測結果のどちらが信頼性があると認識されているのでしょうか?観測結果といっても様々ですが、渦相関法による乱流フラックス観測結果で言えば、その1点の瞬間瞬間の移動速度としては、その測定原理から、極めて高い信頼性があると思います。しかし、現時点では、ある領域(面積)を代表するフラックスとしては、やや信頼性が低くなるでしょう。非常に厳密に精巧に作った植生の蒸散・光合成モデルなどでは、モデル出力の方が観測されたフラックスより信頼できるように感じる場合もあります。この場合、モデル定数の設定のために、非常に精巧な植生の調査(個葉ベースの観測などを含む)を行い、かつ、フラックス観測結果も利用していたりします。原理的には、影響しうる要素を網羅して扱い、詳細に物理則に従う形でモデルを組めば、非常に信頼性の高い出力が得られるはずです。大気大循環モデルなどの全球モデルでは、計算量の制約などから、なにかしらの要素を簡略化・省略して計算せざるを得ない場合が多いと思いますが、その研究で主眼とする要素については、極力信頼性を高めるために工夫がなされているものと思います。
植生の環境応答機能の「その他の要素への応答」とは、例えば何の要素でしょうか?植物に影響を及ぼすものです。光、温度、湿度、土壌水分、さあ、他に何が思いつきますか?( ̄ー ̄)
観測地を中国の小麦畑に設定した理由は?梅雨期があり、地表面状態の変化が明瞭であることと、広大に平らな平地であることが大きな理由です。
植生の特性変化は植物の種類によって程度が異なるのか?当然、植物の種類や生育条件などで異なるでしょうね。
気象条件による作用をどう取り除いてデータを処理するのか?気象条件による作用を取り除くために数値モデルを用いる方法を紹介しました。例えば、光条件の作用は、f1(Q)という関数で表現されます。f1はQの関数ですから、f1自体にはQの作用は含まれません。
せん断応力がレイノルズ応力とイコールなのが分からない。なぜレイノルズ応力と言うのですか?せん断応力は、分子粘性応力とレイノルズ応力からなるが、分子粘性応力は通常無視できるためイコールと表記した。運動量輸送による応力をレイノルズ応力という。Obsborne Reynoldsがこの概念を導入したので、レイノルズ応力というのだと思います。
流体の摩擦は現在どこまで進んでいるのか詳しく聞いてみたい。まずは、流体力学の教科書をお読み下さい。
ビッグリーフモデルのような植生面の熱・水蒸気交換を考慮したモデルは、もっと大規模な気象モデルと結合して利用することは出来ますか?ご紹介したものは、極端に単純化してありますが、同様の構造を持つモデルが既に結合されているようです。森林樹冠では葉1枚である程度は表現できますが、通常は、少なくとも土壌面が必要に思います。
中国淮河流域での顕熱・潜熱・CO2フラックスとアルベドの時系列で時間スケールの細かい変動が見られますが、何が原因ですか?日々の変動は、日々の気象条件などによって生じているものと思います。アルベドも、地表面の湿り気の他、太陽高度や雲の状態(直達光と散乱光の割合)などによっても変化しています。
Time=90〜120でCO2フラックスが0の日が多く見られますが、なぜですか?すいません。欠測の表記が不明瞭でした。その期間はデータがありません。
シベリア・カラマツ林では、5月下旬〜6月上旬にかけてLAIが急激に上昇していますが、日本のような梅雨があるような地域ではどのようになりますか?LAIは単位土地面積あたりの葉面積(片面)を示す指標ですが、シベリア・カラマツ林では、5月下旬〜6月上旬に展葉があったため、急激に増加しました。日本でどうなるかですが、例えば、ヒノキ林のような常緑針葉樹林では、このような大きな変化は年間を通して見られません。落葉樹林では、当然、展葉期と落葉期にそれぞれ変化が見られるでしょう。梅雨が直接的に影響を及ぼすかどうかは分かりません。
Rnet-G>H+λEになるという話だが、この差はどこから生まれてくるのか?さて、どこから生ずるのでしょうか?┐( ー ー)┌
粗度の大きな都市域などでの同様の観測は困難でしょうか?何か対策はありますか?森林樹冠と同じように観測するのは難しいと思いますが、都市のフラックスを研究されている方も沢山います。部分部分ごとに分けて考えたり、模型を使ったり、それぞれに工夫されているようです。
境界層の高度は1日1日違うのですか?どうしてですか?1日1日違います。地表面からの熱供給が異なること、前日の境界層の名残が残存していること、上空大気の上昇・沈降が異なること、水平方向からの熱輸送が異なることなどが理由として考えられます。
境界層高度の変化がもたらす気象への影響はどんなものがありますか?例えば、1例としては、雲生成への影響があります。地表から供給された水蒸気は境界層上端までは比較的素早く輸送されます。上端の高度(温度)と湿度によっては、この水蒸気から雲が生成される場合があります。
渦相関法が今のところ、信頼性があるというのはなぜか?物理的な仮定が少ないため。少なくとも、測定点を通過する瞬時瞬時のフラックスとしては真値に非常に近いと考えられる。
数値シミュレーションの結果が示されたが時間スケールは?Kandaら(2004)のLESによるインバランス率の計算結果を示したが、平均時間は1時間とのことである。なお、通常の観測では30分〜1時間程度の平均時間とすることが多い。
レーダーでどのして大気境界層を測れるのですか?文献検索などで、Windprofilerと検索してみてください。
理想的な森林とは何でしょうか?乱流フラックス観測にとっての理想的な森林とは、無限の広がりをもち、水平方向に完全に一様な森林だと思います。そんなものは存在しませんが。
観測を行うサイト決定にあたり、考慮すべきことは何か?海に近いか否かなど、条件を説明してください。観測されるフラックスのフットプリントを計算する方法がいくつか提案されているので、それに従ってきめるのも一案と思います。宮古島の観測では、岬で海面フラックス観測を試みましたが、フットプリントを計算すると、ある海風の時には、ほぼ海面のフラックスを捉えられたと考えてよいことが確認されました。ただし、海岸付近の浅い海面からのですが。社会的、政治的、技術的、財政的な制約から、現実の観測サイトは思ったとおりには設定できない場合もあります。難しい問題です。
この植生の特性は、地球規模、あるいは、局所的な気候にどの程度かかわっているかは、現在わかっているのでしょうか?どの程度かは、難しいところです。植生のある・なしでは、それなりに全球の気候にも影響がでるようなモデル実験結果はありますが、ちょっとした特性の相違は、地球規模の気候の大勢には、ほとんど効かないだろうとは思います。局所的には、それなりには効くと思いますが。
特に観測されたシベリア・カラマツ林では空間スケールとして、どの程度自発的に関わっているのでしょうか?「自発的に関わる」の意味が不明瞭ですが、シベリア・カラマツ林は、全球に対して、それなりの空間スケール(正確な数字は知りません)を持って存在しているので、そういう意味では、それなりに関わっているのではないでしょうか。
乱流観測では定常流が捉えられないことについて、例としては、どのような方法が考えられるでしょうか比較的規模の大きな定常的(組織構造を持つような)循環の観測としては、やはり、レーダーなどのリモートセンシング機器の利用が必要だと思います。どうすれば、観測できそうか、一緒に考えてみませんか?
乱流観測については、より上空を含めた3次元的な観測が必要って、いままでの観測は2次元だけですか?従来の乱流フラックス観測は、タワーに設置した測器による、1点のみの観測ですが、どのように理解されたのでしょうか?
より上空を観測するのはどうやって観測しますか?今の観測技術でできますか?比較的規模の大きな定常的(組織構造を持つような)循環の観測としては、やはり、レーダーなどのリモートセンシング機器の利用が必要だと思います。どうすれば、観測できそうか、一緒に考えてみませんか?
観測研究において、観測結果と理論がうまく合わない場合はどうしますか?なぜ合わないのか考えます。それが観測研究だと思います。
大気境界層観測のこれからの目標は何ですか?私の個人としては、大気境界層全層の空間的な流れと輸送現象の観測による解明です。